ひよこの無天

ひよこ飛ぶ空に限りはなく

速度53BPMの『DUNE』 感想録

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↑グランドシネマサンシャイン最上階、IMAXレーザーGT上映

 

DUNE、面白かったです!

軽い感想としては「他惑星のナショナルジオグラフィック」って感じ。

スターウォーズのようなシンボリックなメロディーはないし、ノーラン作品のような通底した謎はないけど、純粋に惑星としての生を見つめた、そんなような。

155分、2時間半超えという長尺映画ですが、それを感じさせない良い作品でしたね。

 

話したいことは数多くありますが、5つに絞ってお話しします。

また小説『DUNE 砂の惑星』、及び各種ネタバレ感想等は未読であり、あくまで上映時の映画単体の印象で書いているので、ここ違うよ! とかあるかもしれません。

※注記 書いた内容が消えたので、思い出しながらエッセンスだけ記載します。最初に書いたため無事だった①、④、⑤を除きレジュメっぽく箇条書きにしました。

 

 

 

 

 

①概観

出だしに関しては完全に自然観察系番組を観ている気分とイコールでしたね。あれでも相当情報量を抑えた方だとは思いますが、≪ボイス≫のあたりまでの序盤10分の世界観質量はとんでもなかった。違う惑星の常識ダウンロードの時間ですし。

加えて監督の意地も凄かったです。スペースオペラ連作で大衆的な作品ではスターウォーズが有名だと思いますが、SF古典としてそれを上回る映像作品にしてみせるという意気込みをタイトル下にしっかり表記してある「Part One」表記から感じました。旅立たせるシーンで終わったのもなお良しです。

 

また自然と共存しようと試みる精神はジブリ的とも言えるかもしれません。畢竟人間は生物であり、星に住まう以上は、どう適応するかに腐心するか、あるいは全てを征服してしまうかの2択になるでしょうが、過酷な砂地では前者の方が効率的だったということなのでしょう。無論スターウォーズはほぼ後者です。あとは蜻蛉型ヘリもちょっとラピュタフラップターっぽいです。

 

全体を通して「これがこの世界だ! 伝われ……!」って監督がやってる作品というのが正しいかもしれません。まだPart Oneに過ぎませんし、きちんと腰を据えて次作も傑作に仕上げてもらいたいですね!

 

 

②世界観、文明について

<世界観>

・アトレイデス家とハルコンネン家の闘争+皇帝の構図

・アトレイデス家は公爵、ハルコンネン家は男爵

・アトレイデス家の数千年の血統操作 10000年代は地球の暦か?

・皇帝はどの程度の宇宙空間を統べているか明らかにはなっていない。スターウォーズは一応明らかになっている全ての星域を銀河帝国が統べていたはず(未知領域はあれど)

・しかし砂の惑星がテーマのため外宇宙を描くことはなさそう

・小物が好き 53BPM程度の振動を起こすだけの格好良い振動発生装置&やけに火力高い扉開けレーザー vs 砂圧縮装置&砂固定ライト

・小物で重要なのは機能、機能は環境を表し環境は歴史を表す

・他にも歯から作られたクリスナイフ、「一日に失う水の量は針の先ほど」が売り文句の保水スーツ、磁気嵐で乱れないパラコンパスなど。あなたはどの小物が好きですか?

 

<文明>

・何のために使うかわからない機械、なぜ飛べるのかわからない宇宙船は様式美として美しい

・遥か発達した未来にも関わらず肉弾戦、銃は存在するもののシールドによって無効化か?

・肉弾戦のため身体補強技術は有効→ハルコンネン家の男爵の脊椎補強装置

・ポールに対する師範のセリフ「シールドは遅い物を通す」云々

・シールドはどの星にも存在→皇帝派閥の技術か? であればこれを使って未開文明を支配した?

・ちなみに砂漠に降り立つシーンでもシールドを装着していた 素早いものを弾くシールドは飛んでくる砂も無効化し得るのか

・なぜ人はシールドを常に付けないのか(せめて寝る時以外は腕にでも付けておけば……)

・映像描写的にも致命部位が赤くなるシールドは簡明

・ドローンは暗殺とライトアップ以外では使用されていない?

・暗殺ドローン一体で簡単に公爵を殺せてしまうというのは警護としてどうなんだ問題 操作者が必要とはいえ幾らでも勢力図を転覆可能な気配

・読真術、痛みに耐える修行、「座を狙われ得る」という安直なミスを犯した皇帝、そして語られないものたち。

 

・未来にも棗椰子はある!

・聖なる木とはどこの何に対するもの?

・サンドワームがフレメンの信仰対象なのか、サンドワームの中の何か、例えば特定の個体が信仰するに値する存在なのか

 

 

人間について

・スパイスによるとされるフレメンの眼の青さ

虹彩のみの青さであればスパイスによるメラニン異常だが、角膜、結膜までも青いとなると目を覆う何かしらの膜のような物が生成されている可能性

・「砂漠に適応した民族」フレメンは今見せている以上の超能力を隠し持つか?

・そういえばハルコンネン家も浮かぶ能力を持っている様子 予知夢を見るポールといい、諸大諸侯家は血統操作などにより特殊能力を手に入れているのか

パイロットになりたかった主人公の父親、闘牛士になりたかった(なって死んだ)祖父、救世主になりたくない主人公

・主人公の父親といえば、目元で絶対オスカーアイザックだと思ってた エンドロールで名前が流れて嬉しくなった

・ポールの身体描写が多い。紛れもなく顔が良いし、ファンサービスということなのかも

・フレメンのアイドルチャニさんも顔が良い。宇宙世紀もの、顔が良い同士を並ばせがち

・ダンカンが周囲では評判が良い様子。頼れる兄貴分だが、何かを隠しているようなのも気になる

・主人公のお母さん、皇帝の読真師を血の繋がりある師匠として持ち、血統操作のために息子を産むが想いは本物系の気丈女史 素晴らしい

・私はフレメンだから大丈夫って言って逝ってしまった帝国の生態学者さん、好きだった分何処かで報われてほしいという気持ち

・報われてほしいといえばユエ医師。悪役に加担すると何があろうと不幸になる(ありていに言えば大抵死ぬ)ので当然といえば当然だが、悪役に目をつけられてしまったら逆らって死ぬか従って死ぬかの2択しか残されていないわけで、あまりにも哀れ。ただ子を約束通り守り切ったこと、印章をしっかり渡したこと、死に際して反撃するチャンスを父親の公爵に与えたことは彼なりの忠義か。哀れ……。

 

 

④世界の描き方、劇場演出について

見出し内容の前に、ファーストインプレッションとなる可能性が最も高いロゴについて。

ロゴの美しさについてはもはや説明不要ですが、あの四方向のUで表せることに気づいたデザイナーは、今後も素晴らしい作品を生み出し続けることでしょう。シンプルが最も難しい。

 

本筋の作品について。

砂漠は普段触れていない人でも想像の及ぶギリギリの領域のため、環境についての過度な説明が不要なんですね。いっそ放り出しているとも言えるほど清々しい世界観の混沌の中であっても、本筋で力点が置かれている砂での生活を我々が見失わないのはこのためです。

さらに、導入ではごちゃごちゃすると思っていた人間関係。実際には、想定外に典型的・王道的な人物相関しかなく、理解がしやすいものでした。

わかりやすい悪役のハルコンネン家、わかりやすいミス反逆のユエ医師、わかりやすい救世主のポール・アトレイデス、等々。

 

また、スターウォーズが勇壮だとすれば、こちらは哀愁方面の感情を鑑賞中に感じました。滅びを目にしてもなお、諦めず、前を向いて世界を確かな現実として歩いていかなければならないあの感情。

音楽が顕著ですが、DUNEはシンボルとなるテーマソングがない、というより全般的に静かなんですよね。あっても環境音がほとんどで、砂の世界の静寂が多くのシーンを占めています。これも異世界の現実を実感させる要因の一つです。

強いて言えば、サンドワームを引き寄せる53BPMのテンポでしょうか。人間の安静時の最低ラインの脈拍、あるいはそれ以下。荒廃し、ある形で安定した世界の描写には相応しいリズムです。DUNEのことを考えるとき、必ず頭の中に浮かびますし。

 

劇場演出について。

観た方は分かると思いますが、IMAXサイズのシーンと通常サイズのシーンが作品内に混同しています。単純にIMAXカメラを使ったシーンとそうでないシーンで分かれているのでしょうが、なぜその違いが発生しているのか考えてもはっきりとはわかりませんでした。

最初の方、砂漠アラキスにアトレイデス家として降り立つシーンは通常サイズでしたね。しかし砂漠や風景を選ぶときはIMAXサイズ。とはいえスパイス採取社会科見学シーンは通常サイズ……とばらつきがあります。じゃあ装置が入ってると通常なのか、というと都市が見えてくるシーンはIMAXサイズだったはずですし……。

と書いてて一つ仮説を思いつきました。もしかしたらIMAXサイズだと撮影関連機材がどうしても映り込んでしまう場合に通常サイズなのかもしれません。この監督がどのタイプなのかはわかりませんが、クリストファー・ノーランが賞賛していたということはほぼ全てのシーンを実写で撮影しているはずで(本当か?)、となれば都市やアトレイデス家の館などを実際に建築していると思うのですよね。※後に『DUNE』公式サイトの実写関連記事を読んだところ正にその通りの描写が。

つまり遠くから引きで撮影する分にはセットがあるのでがっつりIMAXカメラで撮影することができ、砂塵など各種特殊効果を効かせる必要性に加え、宇宙船からの登場シーンを描く必要のある前述アラキス到着時は全てを映してしまわないように通常サイズにならざるを得なかった、と。まさか宇宙船をフルサイズで作るわけにもいきませんからね!

仮説ですが当たらずとも遠からずな気もします。

 

 

⑤これからの「DUNE」論

唯一砂漠を味方につけているフレメンの後ろ盾を得た主人公、ポール。

どの程度まで真実かはわかりませんが、おそらく夢のほとんどは現実になるのでしょう。すなわちダンカンは死んでしまい、ポールは死んで生き返ることで救世主となり、チャニを妃的ポジションに置き、そしてアラキスを従え皇帝に戦いを挑む。その途中でサーダカーたちとも戦闘する描写もありました。

……長いですね。これ本当に次で終わるんでしょうか。

 

スパイスが必需品たる所以も気になります。食糧の保存なんかではもちろんないはずです。

本編で明かされているのは幻覚剤としての役割のみですが、例えば所持者の能力を拡張する力があったりするのでしょうか。

昔から「たまに正夢にならない」レベルの正確さで正夢を見るポールに、この先の全ての世界を見せたように。

 

伏線を山ほど張って回収し切らずにPart Oneが終わってしまいましたが、二部作目でどこまで回収してくれるのでしょうか。

もちろん原典を辿ればわかるものも多いでしょうが、映画にどこまで詰め込むことができるのか楽しみではあります。

 

とはいえ、読書会の時にも語った持論ですが、良いSFとは作品外の作品世界を感じさせるものである、と私は考えています。細かく語らずとも想像させる余地さえ与えてもらえればこっちが勝手に想像できますから。

 

ということで、次回作では世界観拡張パッケージ実装の方、よろしくお願いします。

あと頭の中にあったこと全部書いたはずですが、書き漏らしや思考ミスが必ずあるものですし、他の人の視点も知りたいので感想の方教えてくださいね。

 

 

以上。

 

アトレイデス!アトレイデス!