『すずめの戸締まり』 鑑賞記録
引き伸ばし続けてきた『すずめの戸締まり』、観てしまいました。
全くの偶然なんですが、ちょうど来場者特典の本が第二弾に切り替わっていたみたいで、既に第一弾が家にあるこちらとしては素晴らしいタイミングでした。
↑新海誠本2。たすかる
さて、忘れないうちに感想を書いておきたいのですが、もう内容を忘れかけているので大雑把な感情だけ書いておきます。衝撃が大きすぎて内容を忘れるやつ。
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ネタバレ防ぎの
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ということで。
まだ鑑賞特典を1、2とも読んでいない状態なので、勘違いしている部分はあると思いますが適当に書き殴っていきます。
鑑賞前に触れていた事前情報は、主題歌と劇中歌と、「新海誠って日本史詳しそう」バイアス、白い服で顔がいい男の「お返し申す!」、それからヤバい(らしい)男:「芹澤」 だけです。
涙が引いて寒くなってきた……。
オープニング
ここで一回泣いた。早すぎる。
廃墟をゆくすずめ。この子がすずめであることは既知でした。マクドナルドの本読んだし*1。
なんやかやあって夢から覚める。朝ごはんを食べ、鍵を2回掛け、家を出るすずめ。めっちゃ鍵描写丁寧だな、とは思いました。まあ戸締まりだからな〜
すると草太に出会う。この人が草太であることは既知でした。めっちゃTwitterで流れてくるし*2。
正直出会いまでが早すぎて驚きました。ここまでは『君の名は。』をイメージしていたので、長い冒険の末に出会うものかと思ってました。
かつ前評判通りハイパーハウルでしたね。髪の色が変わりそう。
色々あって、色々バタンバタン開け閉めして、色々「あれ見えないの!?」して、色々「君は来ちゃダメだ!」して、色々「お返し申す!」して、鍵掛けて、
美しすぎる………。
オープニングの入り方が気持ち良すぎて泣いた。ずるですよ!
中盤
もうこの段階でだいぶ満足していました。
正直ここで終わっても良かったかもしれない。閉められてよかったね!
まあ本当にここで終わられたら暴動起こすんですが。
オープニングの余波を引きずっており、気がつくと草太が椅子に。そういえば公式Twitterが椅子になるって言ってたな。
感情を使い切っていて、椅子になった草太にも、明らかに超常的存在のネコにもあまり感情が動きませんでした、申し訳ない。
なんならネコを追いかける椅子、それを追いかけるすずめ、それを撮影してバズろうとする一般市民の方々、忘れ去られた肖像権、にも疲れていて感情が動きませんでした。
強いて言えばTwitterに投稿された椅子の写真のキャプションの中でも、ポイントなんちゃらテクノロジー(機械工学のやつ)じゃないかって言って分析しようとするツイートが心に来ましたね。信じられない事象を見た時に一歩引いて「ありえないことはありえない」として現実的なアプローチを取る。多分自分もそうするでしょうが、それこそが自分が不思議なものにただ単に「すごーい!」と感動することを、忘れてしまっている、あるいはできなくなってしまっていることを示す証拠になっているので。
切符も示さずにフェリーに無賃乗船するすずめ(あとで思えばきちんとお金を払って乗船していたのでしょうが)。パンを椅子に食べさせようとするも失敗。そうして1日目の夜が更けていく。
降りたらそこは愛媛でした。めちゃくちゃ周りにみかんみかんって書いてある。ほんとはそんなにみかんばっか書いてないと思うけど……。
そしてみんなやたらネコを可愛がる。邪神が人々からの崇拝を受けているがいいのか?
ネコを追って駆け回る。すると転がってくるみかん。迅速にネットを張る椅子!?!? あまりに手際が良すぎて過去にみかんを受け止めた経験があるんじゃないかと疑ってしまいました。そして自身の旅について女の子に話し、学校の扉を閉め、女の子の家で浴衣を着て(???)就寝。旅館じゃ言うから納得したけんど、たいがいそんな田舎じゃないけんね!
こうして二日目の夜も更けていく。
次の日。神戸まで行きたーい! と思って取る手段がヒッチハイク、それはいい。書いている内容が「神戸行き」だけで乗せていってもらえるものなんですか? まあ成功していないのでダメなのかも。落ち込んでたら明らかに関西弁のおばちゃんが神戸まで連れていってくれることに。神戸までなので神戸弁だったんだろうけど、そこまで詳しくなくて分かりませんでした。
からの「あそこの方に閉園した遊園地があるんよ」、確定演出すぎるセリフ。
スナックで高校生が働くのはどうなのかって一瞬過ぎっちゃったけどそんなこと言ってる場合じゃないし仕方ない。で、多分ここで恥ずかしがったり明確なセクハラを受けていない、っていうのが世間的に評価の高い理由(より正確には「叩かれていない理由」)なんだろうなあとは思いました。
ただこの辺のシーンで、同時に「恐れ」も感じました。おそらくすずめは典型的な「綺麗な家庭」で育ってきたので、愛情も受けてきたし自分をおばさんが見捨てないって信じきっているし気軽に家を飛び出せてしまうんでしょうが、そんなすずめとはちょっと遠い世界をこの旅の中で知ることになり、なおかつその全てを「意志の強さ」だけで乗り切っている。少しでも悪意が絡めば崩落する橋の上を歩くすずめ、その危なっかしさによって、恐怖が生まれているのかもしれません。
とか言ってたらすずめが椅子と飛び出し、廃墟の遊園地で扉を閉める。ポテトサラダ入りの焼きうどんを食べ、三日目の夜も更けていく。
焼きうどんにポテトサラダを入れるのは冒涜ですけどね。
そして新神戸駅から東京へ。
長旅した挙句路線ダンジョンを食らい、へとへとになるすずめ(かわいい)。ローソンの2階の草太の自宅に行き、東京の要石を探していると、
来た!!!!! 芹澤!!!!! 待ってた!!!
ようやく芹澤が来てくれました。多分ファンファーレも脳内で鳴ってた。
ヤンキーみたいな風貌で、指に髑髏の指輪つけてるけどきっちりするとこはきっちりしてる。その上丸メガネでタバコも吸ってる。これは特定人物にピンポイントなわけですね。事前知識で知っていた芹澤に会えて思考が一回休み。
気がついたら東京が大地震に巻き込まれそうになっていて、椅子が代わりに要石になってしまいました。飛びすぎ。と言うより記憶がもう残っていません。この間の唯一の記憶、どうせ要石は明治神宮にあるんじゃないの? でした。違いました。
下水道で目を覚まし、外に出るともう朝。強そうなおじいちゃんに面会し、前に迷い込んだ扉からなら入れる、と教えてもらう。すずめ、もちろんノータイムでGo。明らかにここから終盤っぽくなってきました。
終盤
実家に帰らなきゃ! であてもなく走るすずめ。もう少し考えて欲しい、そこに駅もあるので……と思っていたら芹澤's car。ここから本編ってことか?
すると駅からおばさんがやってくる。なんて天文学的確率偶然なんでしょう。
二人で芹澤に迷惑を掛け倒しながら宮城へ。途中でなんかおばさんが取り憑かれたり、その元凶の黒猫が新しくパーティーに加わったりして、楽しく向かっていたはず(ほんとうですか?)が、いきなり喋った黒猫のせいで車がおしゃかに。だからこんな子達に関わっちゃダメって言ったんですよ芹澤さん!
すると草むらに乗り捨てられている自転車を発見。奇跡的にどこも破損しておらず、タイヤに空気も入っている。なんて(以下略)
すずめ、宮城の実家に到着。
過ぎ去りし日の幻灯に想いを馳せつつ、地面を掘り返すと「すずめのだいじ」発見。結構内容が消えかけてるけど、これが「すずめのだいじ」だったことは間違いない、よかったねって思ったので。
中の日記帳は、3才かそこらの子が描いたとは思えないほどカラフルで、しかもかなりのボリューム。すずめ、当時はマジで暇だったんでしょうね。
そしてぶち当たる検閲の壁。いやこれ検閲でしょ、どう見ても。すずめのだいじ、不適切書籍だったのかもしれない。その黒塗りページが5、6ページ(やたら多い)続き、その先に常世のイラストが描き出される。
「思い出した! 電波塔に月、かかってた!」
ここでいきなりですが、「原初記憶」の話をしましょう。
原初記憶とは、その人の記憶の中に残っている最初の記憶のことです。その記憶がその人の人生観や、価値観に影響をもたらしている、とする学説もあります。要するに、当人に多大なインパクトを与えている記憶ということですね。この記憶としては、ネガティブなものもポジティブなものも記録されていますが、最近は不況の煽りを受けてか(しっかりとした理由は不明)原初記憶としてネガティブなものを想起する人が増えているようです。ネガティブなもののほとんどはトラウマ的記憶で、こういった記憶は具体的かつ詳細に想起できることがほとんどです。話が逸れ倒しました。
すずめの場合は、この「電波塔に月」? いや、そもそもお母さんを亡くした記憶? いや、おそらくはお母さんが椅子を作ってくれた記憶、でしょう。日記帳にはそれより以前のページもあるようですが、「一生大事にする」ほどの椅子を誕生日に作ってもらえたことが、最大のイベントであったことに間違いありません。
ではなぜ、そのあと悲しい出来事が起こったのに、原初記憶がポジティブなものなのか。おそらく、意識して母親の死を遠ざけていたのに違いありません。幼い頃におばさんに養子にとってもらったすずめですが、その記憶も、その時取っていた行動も、どちらも曖昧です。気丈なすずめは、過去の忘却によって成り立っているのです。
記憶は、「意識しないようにすることで忘れる」ことができます。この事象は、文字情報に限らず、画像や風景すらも対象にとれます。そしてこのプロセスをとって忘れ去られた記憶は、ネガティブかポジティブかに関わらず、その記憶の感情価が希薄になります*3。お母さんについての辛い記憶も、椅子を作ってくれた嬉しい記憶も、その全てを望洋の彼方に置き去りにして。
しかし、それにも例外があります。
そう、トラウマ的な記憶です。
トラウマは記憶に深く刻み込まれた現象で、現実で想起するとっかかりを見つけるたびにフラッシュバックと呼ばれる現象を引き起こします。本映画で扱われている大地震においても、トラウマを抱えることになった人々は多くいるに相違なく、そのなかにはすずめももちろん含まれています。
フラッシュバックの描写は本編内でも幾度か描かれています。ですが、この「本来忘れているほど昔に経験した『電波塔にあの時月がかかっていた』という記憶」は、直接的にフラッシュバックとして思い出すような記憶ではありません。
ここからは想像になりますが、すずめの中では母親に関連する記憶として、自身が常世に迷い込み、不思議な経験をし、その後おばさんに拾われる。そこまでをひとくくりに捉えていたのではないでしょうか。
それは、すずめが母親をなくし、おばさんがすずめの母親代わりを務めるようになるまでの出来事が、すずめの内では連続した一つのストーリーとして見なされている。すなわち、おばさんはそれほどまでにすずめに母親と同一視されていた、ということであったのかもしれません。
閑話休題。
無事に当時の扉を発見できたすずめは、ネコが邪神なんかではなく、むしろすずめを導いていたことに気づきます。いやわかんないしきちんと説明してほしい、せっかく話せるんだし。人間話さなきゃ伝わらないよ?
そして常世へ入り、なんだかんだあって椅子(草太)を解放することに成功。よかったね……の気持ち。でも草太の気持ちが読めてしまったことで、彼もすずめへの想いがまあまあ重かったことが発覚。でも出会えてよかったじゃん。
あとはもう何も障害がないので無敵です。ネコも諦めて要石になってくれたので(最初から諦めてくれ)、草太と一緒にお返し申す! してミミズ封印。
幼い頃のすずめに対する伏線回収をして、ハッピー・リターン・トゥ・現世。草太とまた出会う約束をして、おばさんと一緒に本来の意味でのお礼参りをしながら帰路に着くのでした。
終わりに
結構投げっぱなしの部分も多いし、謎解けてる? それでOK? ってなるとこも多いけど、それはそれとして横に置いておくと、密度の濃い青春が晴れるみたいな気持ちのいい映画でした。あと演出がちょくちょく上手すぎる。
物語的なというか、技法に関してはあまり語れる知識を持ち合わせておらず、つまりその視座を持たないものとしてその点での良し悪しは議論できないんですが、登場人物のその時々での感情も理解できるし、面白いキャラも出てきたし、幻想的な景色は自分の趣味に合うものでしたし、要約すると少なくとも自分は好きな映画でした。
いつになるかわかんないですが、ブルーレイがでたら買うと思います。
そしてあのオープニングを無限ループするんだ……。
【終わり】
《追伸》
妹、新海誠本1とハッピーセットのおまけのみならず、すずめの戸締まりの小説版も持っているらしい。これを鑑賞直後の人間に見せたら死人が出るが?
↑小説版『すずめの戸締まり』
↑狂気の凶器。危なすぎるこんなもん